井上尚弥、中谷潤人などのニューヒーローが生まれ、世間のボクシングに対する注目はここ近年、最高潮ではないかと思われる。
地上波でタイトルマッチは見たいが、一方で懸念される状況もある。
ここ2年で、リング上のファイトの結果、3件の死亡事故、1件の意識不明の重体と、日本でのボクシングの興行を考えるべき状況といっても過言ではないリング禍が起こっている。
私はボクシングは全くの未経験で、あくまで視聴者、ファン目線でしか語れないが、この問題はファンも向き合うべき問題だと思う。
急性硬膜下血腫についてファンも考えなければならない
先日、2人の命を奪った急性硬膜下血腫は、脳への蓄積ダメージではなく、一撃で発生するとJBCの医師が回答している。
脳と硬膜をつなぐ静脈が切れて発生するらしいが、例えば硬いロープをナイフで切る場合、重い一撃でいきなり切るというよりは、連続で同じ箇所を叩きつけるように切って切ることがあるため
医師の発表だから、エビデンスとしては最上位でありなが、関係各所では疑問の声が上がる。
もし強烈な一撃が原因であるなら、スタンドやパウンドでボクシングより遥かに小さいグローブで殴る総合格闘技のほうがリスクは上ではないのか?
しかし、総合格闘技で水抜きの事故はあっても、試合中の打撃での事故で大きく報じられたものはない。
ここ数年、ボクシングはよりアグレッシブに闘う傾向にある。
大きな要因は判定基準の変化と世間評価の変化だ
一昔前のボクシングはいかに相手に的確な打撃を当てたのか?が重要となり、ガードの上に何発も打撃を当てるより、的確に顔に一撃を当てた方が評価されていた。
しかし、近年はガードの上であっても強烈に効かせる、打撃音をあげる、相手をのけぞらせることでもダメージや試合のコントロールしていると評価される傾向にある。
一見すると昔の方が的確に急所を当てる必要があるから危険に見えるが、軽いジャブや、フットワークで的確にポイントを狙うアウトボクサーも高く評価されている
一方で近年の判定基準になると、フットワークで翻弄して判定勝ちできるボクサーはほんの一握りで、ポイントのためにあえて地面ベタ踏みで打ち合うボクサーが増えた。
ガードの上から効いていると判定されるためには、大ぶりなフック、ストレートを繰り出す必要があり、大きな隙とカウンターを食うリスクがある。
またガードする側もガードの上からも頭部が揺れるような衝撃を受けることが想定される。
次に世間の評価だが、井上尚弥というスターの登場で、ボクシングへの価値観が変わった。
なぜ井上尚弥に人気があるのか?
ボクシングの基礎を全てマスターし、苦手なところがなく、同じ無敗選手でさえも圧倒している
複数階級に挑戦し、上の階級のチャンピオンでさえもKO勝利している
いろいろとあるが、本質的にはリスクを恐れずにKOを狙うファイトスタイルが評価されていると思われる。
ここ最近の試合で、2回ダウンをしている井上尚弥だが、いずれも相手のKOを狙って、踏み込んだところに左フックのカウンターを受けてダウンしている。
ここが井上尚弥の明確な弱点だと指摘する声もあるが、彼がローリスクで、テクニックとアウトボクシングに徹していれば、おそらくフックのカウンターはそう簡単に食らわない。
世間の目が、井上尚弥=ドラマティックなKOというイメージがあり、それに応えたいという本人の意志もあるのだろう。
PFP1位になるためにも、無敗を続けることも重要だが、いかに同じぐらいの強さの相手を圧倒できるか?もランキングを左右しそうだ。
この井上尚弥現象と重なるように、ショート動画やSNSでKOシーンがバズるようになる。
アウトボクシングで圧倒して12ラウンドを制したという試合の見どころを見つけるのは、初心者だと難しい。しかしドラマティックなKOであれば、スローモーションにしたりして、「あそこにこう反応したんだ」と見つけるのが楽しい。
なにより、インパクトと迫力がある。
そして、一番影響を受けているボクサーの1人が那須川天心だ。
彼はキックボクシングで無敗を誇り、鳴り物入りでボクシングの世界に入る。ボクシングファンからは当然難色を示されるが、その声をかきけすように圧倒的に試合をコントロールしている姿を見せている。
格闘センスは抜群であり、那須川天心の才能をボクシングでも見られるというのは、格闘ファンにとっては幸せなことだ。
しかし、那須川天心は、現状に満足していない。彼は井上尚弥のような評価をされたいと思っている。
2025年6月8日のビクトル・サンティリャン戦で10ラウンドで圧倒しており、カエルパンチなどの見せ場もつくるが、KOできなかったことに本人は全く納得していなかった。
彼の腕周りが明らかに太くなっており、あれだけ思い切りふってもダウンさせることができないのがボクシングの難しさなのだろう。
長々と語ってきたが、現代のボクシング選手はみんな注目されたいし、前に出て戦わなければならいとある種、強迫的な気持ちで戦っているのではないだろうか?
それが事故が起こる間接的な原因ではないだろうか。この場合、直接的な原因を探ることは非常に困難だ。
リング禍をなくすためにはどうすればいいのか?
ボクシングというスポーツが頭、脳という急所を狙うスポーツである以上、被害やリスクを0%にすることは不可能だ。
しかし、0%に近づけることはできる。
よく言われる案として
- ドクターを帯同しているが、救急車も会場によせておく
- すべての試合を10ラウンドに短縮する
- スパーリングについて見直す
などある。
救急車を常時おいておくことは理想ではあるが、すべての試合でそれを実現することはかなり難しそうだ。
軽量級、タイトル戦など限定的に行えないものだろうか。
スパーリングについては、当然公開スパーリングしかみたことがないから、語れない。
アマチュアボクシングのようにヘッドギアをつけて試合したら安全だろうか?とおもったがそんなことはないみたいで、またKOのないボクシングとなると、視聴人口は一気に減ると思われる。
ラウンド短縮だが、これもリスクのパーセンテージを減らすことはできるが、大きな効果がもたらされるかはわからない。
ラウンドが少ないからこそ、さらに大ぶりになって、致命傷が増える可能性もある。
今すぐにできる対策といえば、上記になるだろう。
総合格闘家の青木真也氏は、UFCがAI技術などを導入して、事故をほぼ0に防ぐだけのノウハウがあるのではないか?と指摘されている。
ボクシングだけの問題にとどまらず、格闘技全体、そしてその格闘技を「娯楽」として楽しんでいる我々も考えるべき問題だ。
AI技術などが発展した場合は、試合中にリアルタイムで頭部へのダメージの回数などを図ることができる。
例えば「この選手はいままでのラウンドで頭部に連続して10発の強打を受けて危険なのでレフェリーストップをかける」という指示もできる。
ボクシングの醍醐味のKOは減るかもしれないが、優勢とおもわれた選手が、カウンターによって一気にKOされたという醍醐味は残る。
逆に、ダメージを食らい続けて、蓄積されて倒れてしまったという、結果的に敗北が見えているKOを防ぐことで、その選手のキャリアや命を守ることにつながる。
しかし、伝統や旧態依然といわれているボクシング業界が、新しい技術をさぁ明日に導入して、ルールを変えるぞ…となるかどうか。これは極めて疑問だ。
青木真也氏が語られたように、もっと多くの犠牲者が出ないと変わらないかもしれない。しかしできることなら今の状況で改善に進む方を願いたい。
それは、ファンも競技者も気持ちは同じではないだろうか。1
