青木雄二先生による、金融、借金を題材とした漫画の金字塔「ナニワ金融道」をamazonアンリミテッドで全話読んだので、後世に残したいナニワ金融道全エピソードのあらすじと解説を行いたいと思います。
すべてのエピソードをまとめると、1つの記事におさまらないので、分割してお伝えしています。気になるエピソードがありましたら、下のリンクから飛んでください。
※ナニワ金融道は90年代前半の社会情勢と法律をもとに製作されています。物語の中には、犯罪、違法行為が描かれております。このブログはあらすじとしてまとめているだけで、劇中の行為を推奨するものではありません。
7巻 靴をオシャカにした代償
- 債務者 山川与太郎
- 借金額 200万円+150万円
あらすじ
損害金をすべて賠償する念書の恐ろしさ
情事にふけていたカップル(運転手が山川与太郎の息子)が、夢中になってベンツと追突事故を起こしてしまう。
ベンツの所有者、腹黒は、入院費用と修理代の頭金として山川に200万を要求する。
山川は即座に200万を渡すが、相手はもらっていないと言い張って、領収書を渡さない。紙袋で渡されたので、板チョコだと勘違いしたと嘘をつく。
山川一家が途方に暮れる中、腹黒は病院の1日4万円の個室を勝手に借りる。
山川は無制限の保険契約を結んでいるが、ここでいう無制限は、保険会社が公正と認めた金額ならいくらであろうと払うということ。
無制限に払うことを鵜呑みにした山川は、腹黒に対して、被害はすべて賠償しますという念書を書いてしまっていた。
腹黒は山川の妻と二人きりになったタイミングで、200万円の件を切り出し、「保険がおりるまで待つから、200万確かに借用しましたと書いてくれ」と借用書を書かせる。
借用書を書いてしまったことで、借りてもいない200万を借りたことを認め、山川家はさらに200万、腹黒に返す義務が生じてしまった。
腹黒は、年代物の時計がなくなったといいはり、さらに150万を山川一家にせびる。山川は灰原に追加融資を頼む。
山川の田畑と家屋敷に800万の根抵当を付けているが、農地を売買するには、農業委員会の許可が必要になる。農地は農家にしか売れないのだ。(ここ重要)
農地乗っ取り計画はじまる
同時期に、吉村が献金急便の浦金という人物から5000円の融資を依頼される。浦金は6400平方メートルの土地があると言い張るが、登記されていない。表面上はターミナルとなっているが、実は農地だったのだ。調整区域の網が外れたら、10倍以上の値上がりが確実という。
山川は腹黒に個室と豪華な食事代を請求される。正当な医療費として保険業者からも認められない。時計の賠償金も現物がないため、保険屋に認められなかった。
腹黒はヤクザの兄貴に演技を頼み、ベンツの全塗装や、買い替えの必要があると主張する。1台1000万はくだらない。
灰原は、浦金と山川をつなげる案を思いつく。農地であれば売買できないが、宅地なら売買可能。浦金の処分できない農地の名義を山川に変える。
山川は浦金に5000万融資させて、浦金は山川に手形を掘り出す。どちらが飛んでも土地をおさえられる公算になる。
山川家はさらに帝国金融に100万ほど追加融資を受けるが、まだまだ腹黒への返済は程遠い。
腹黒の兄貴の紹介で、劣悪な環境の職場へ案内されたり、息子の事故の原因となった相手女性が妊娠して、結納金が必要になったりと、トラブルが重なる。
腹黒は連帯保証人となった、山川の兄弟の家にも押しかける。
灰原は山川に対して、保険のプロだった彼女の朱美を応援によこす。結果、保険の300万上積みに成功する。
結末 乗っ取られる計画 灰原 鬼になる
帝国金融は浦金の土地を回収するため、浦金のライバルにターミナルの不正取得と、無許可トラックの出入りを密告する。不正が明るみになったことで、浦金は飛ぶことになる。
山川は息子の結婚相手の種付に、借金について相談する。
種付は、不動産に相談する。帝国金融が抵当権につけた6800万を支払うことができれば、名実ともに浦金の土地は山川のものになる。
不動産屋の助力により、6800万を用意した山川。それは灰原の裏切りになる。灰原と桑田の前で6800万を突き出し、土地を手にする山川に対して灰原は
「山川さん、借金する人間を信用してはいけないとはほんとうのことだったんですね!
僕は、同じ人間じゃないかと思って今日まで仕事をしてきたのですよ」
と訴える。最後に目に涙を浮かべ
「こんなにくやしい思いは初めてなんです。まるで自分の金をかすめ取られたみたいで・・・・」
解説
胸糞エピソードその2。そして灰原が、帝国金融の方向へ、冷徹な金貸しになるのでは?と危惧するようなエピソードになっています。
こちらも4巻の泥沼と同様に、些細なミスをきっかけに借金が大きく膨れ上がります。
腹黒の行為は、現代においては、脅迫にもとれるものですが、念書をとらせたり、借用書をかかせたりとインテリヤクザぶりを発揮して、山川家を翻弄します。
また、山川家はヤクザだけでなく、保険を出し渋る保険屋にも苦労させられます。どのようなパターンで保証金を出してくれるかをあらかじめ、知る必要があります。
現代なら、金銭トラブル時の相談窓口や、国に無料で相談できる機関はあるかもしれませんが、山川一家は街金にかけこんで、さらに自分たちの首を絞める結果になりました。
灰原視点でみると、プライベートを削ってまで、山川一家の借金の負担を減らそうとし、腹黒との付き合いに対しても警告を促します。
一方で、ここで描かれる灰原はかなりの企業戦士です。借金の利子まですべて回収するのが、金融業の基本ですが、浦金の土地を手にすることで、会社にさらなる利益をもたらそうとします。肉欲のビル買収で、やりがいを感じたのでしょう。
ただ、灰原にはあまりインセンティブがないですね。
結果的に山川一家は灰原の作戦を利用して、借金を返済するどころか立派な土地を手にしてしまいます。灰原からすれば、自分たちの失態で借金を増やしたのだから、努力して返してくれよと思うわけです。
一方で、山川一家からすれば、灰原に相談してもらった恩義はありますが、借金は膨らむばかりで、感情と損得は別腹といったところ。1000万を超える返済義務を背負うと冷静な判断は下せないですね。
そもそも、相手からいきなり「念書かけ」「借用書かけ」といわれたら、相手の風貌や内容について、疑いの目を向けるべきですね。それは心掛けないといけません。
8巻 ここはアリ地獄の1丁目
- 債務者 三宮損得
- 借金額 50万+500万+350万+2500万
あらすじ
職場に押し掛ける金融屋
学校の教頭をつとめるが、娘婿で、鬼嫁からいびられている三宮のもとに、蟻地獄物産のセールスがやってきた。
職場にづかづかとあがるセールスマンから、南京豆の先物取引の証拠金50万をいれてくれと頼まれる。
セールスマンは、電話で「けっこうですねー」の肯定とも否定ともとれる言葉を抜き取って、南京豆の売買をかってに行い、押しで三宮に50万払わせる。
三宮は借金の担保のために、妻の株を勝手に拝借する。
セールスマン破目から、南京豆があがったことを伝えられ、三宮は一夜にして50万から62万の利益を得る。破目は取引を継続させるため、帝国金融からの利子をいれると稼ぎは少ないことを、三宮に告げる。
再び、三宮は破目に金をあずけ、62万で南京豆を購入するよう依頼する。ちなみに買い付け金額と証拠金は違う。
三宮はレバレッジをかけて南京豆を購入されていることを知らず、また往復の手数料を蟻地獄物産がかけていることもしらない。そのため少々、南京豆の値段が上がっただけでは、損になる。
三宮は妻から株をくすねたことを責められ、激しい暴力にあう。妻は、破目と灰原を呼び出す。妻の目的は株の返却であり、三宮のことはどうなってもいい。
灰原は社長につめられる。むしりとってでも一括返済させれば、三宮と破目の縁は切れるので、多少の損で終了する。しかし、三宮の融資を増やせば、三宮は先物をすすめさらに、借金を背負う。
しぼるれるだけしぼれるか、鬼になるかを問われた灰原は、後者を選択する。
灰原、鬼になる 蟻地獄物産に搾取される三宮
灰原は三宮の妻を欺き、保証契約書を書かせる。
破目は、三宮をさらに追い詰める。仕事中に電話かけ、適当な言葉をひろって、一気にまとめて南京豆をかわせる。
三宮はさらに帝国金融から500万融資を受ける。
蟻地獄物産は、三宮に大量の買いをさせる一方で、逆に同じだけ売りを発注することで、三宮に損させ、自分たちはノーリスクで得する方法をとる。(最低でも三宮から手数料分だけ回収できる)
破目は再び、三宮のもとへ訪問し、価格が下がったことで追証が発生したことをつげる。ここではじめて、証拠金の意味を三宮は知る。
灰原は朱美の元カレと出会い、挑発されたことで喧嘩になって警察にしょっぴかれる。その中で取り込み詐欺をやっていた泥沼と再会する。
泥沼は取り込み詐欺の手口を灰原に教えてもらったとうそぶく。
犯罪に手を染め、人生のどん底を味わう三宮
次々と追証を言い渡され、堪忍袋の緒が切れた三宮は、破目の上司であるホラフキオを呼ぶことにする。
さらに追証が必要になった三宮。灰原は捕まっているので、桑田が変わって対応する。修学旅行の積立金を横領し、さらに妻の名前をかってに拝借して、根抵当をいれることで、350万の融資を受ける。
ホラフキオは、三宮に買い、売り同じだけ行う両建てを提案する。損得が喪失され追証に悩まされずに済む。さらにプルトニウムも追加で買えと誘い、同時に独断で200万買うというとんでもないことをしてしまう。
最終的に三宮は4000万投資するが、残ったのは31万円になる。
三宮の手元には灰原がさらに追加で融資した500万が残るが、一夜を共にした夜の仕事の女性に盗まれる。
三宮は修学旅行の積立金に手を付けたままで、妻の有価証券も盗む。それがすべて明るみになる。三宮は大量の睡眠薬を購入して、ホテルで眠るが、灰原によって阻止される。
最終的に、連帯保証になった三宮の妻が差し押さえられ、4500万の融資から4700万を回収する。
解説
胸糞エピソードその3。
このエピソードの面白い点として、帝国金融は借金回収に成功するが、あくまで第三者としての立ち位置で、蟻地獄物産に圧倒的な搾取を食らう無知な三宮の構図になっている。
三宮は、押しに非常に弱い性格になっている。鬼嫁によって小遣いを極限まで制限されていることや、自己主張を殺されていることがきっかけで、今回の蟻地獄への罠にはまる。
一方で、鬼嫁は最終的に被害者ではあるが、初期の段階で、三宮の損を少しかばっていれば、被害は最小に済んだ。ある意味、なぜ結婚生活を続けていたのか謎。
現在なら、ネットで手数料や証拠金に関する情報は流れているが、20年ほど前なら、先物取引への知識を得るのは非常に難しい。
現に、帝国金融社長も、素人が先物に手を出すことは、いきなりボクシングのチャンピオンに挑むことと例えている。
現在ならアウトだが、蟻地獄物産のやり口は非常に狡猾。
職場に遠慮なく押し込むし、証拠金の説明もまったくしないし、電話の応答だけで勝手に注文を行ってしまう。
本当にネット社会になって、取引は健全化されたのだなとしみじみと感じる。
後々、帝国金融もえげつない側面をみせてくるのだが、蟻地獄物産の面々は、ナニワ金融道屈指の悪人といっても過言ではない。法を犯していないが、法の下で弱者を搾取しているから、たちが悪い。
しかしながら、アメリカではロビンフッドなどを利用して、若者がいきなりオプション取引をして、大きな損失を被るというケースが出ている。
誰かに勧誘されて、手数料をぼったくられるとか、損を被るリスクは減った一方で、自分からリスクの沼にはまってしまうことを知るべきです。