死してなおも輝く(2年後なのでネタバレ含む) MGS至上ベストエピソード ヴェノムの感情と戦争の禍根

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実質ラストミッションといえる「死してなおも輝く」というミッションについて語っていこうと思います。
MGSの中で、一番素晴らしいエピソードです。「話がいい」というだけではなく、MGSVのストーリーを受けての衝撃的な結末と、決断の絡んだ話です。
ゲームストーリーではなく、エピソードというくくりながら、間違いなくベストエピソードといえます。





発売して2年が経過しているのでゲーム性やストーリーに関してああだこうだいうのももはや遅すぎると思いますが、逆にネタバレに関して神経質になることはないと思うので、ファンの間からも評価が非常に高いです。

このミッションはメインミッションに該当するのですが、突然カズヒラから無線で呼び出される緊急ミッションという形をとっています。

 

 

このミッション、噛み砕いて身もふたもないことをいえば、外部に感染させることを命令された死ぬことしかできない突然変異を遂げた声帯虫を宿した兵士たちを感染防止のためにやむなく殺していく(介錯する)ミッションです。

当ブログでは、新作や旧作にかかわらず、ゲームのストーリーとプレイの連動について考察する記事をいくつも書いています。

 

 

 

また、小島監督最新作2019年に発売された「デス・ストランディング」のレビュー、ストーリー感想を記載しています。

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MGSVのゲーム性を全否定したうえで、メディックのストーリーを作る

このミッションはあらゆる点でMGSVのゲーム性の真逆とMGSVのお約束を破った流れをとっています。

・兵士を集めることが攻略の基本だったが、このミッションではその集めた兵士を殺してく
・準備画面もなく武器は固定される
・ほぼ屋外での作戦だったが、このミッションはすべて屋内で完結する

 

 

(他方でいわれていますが、小島監督のホラー演出の巧さも本作は際立っています)
・スタッフロールが冒頭の勇ましいBGMではなくもの悲しく、ワンテンポ遅れて流れる
・ヘリ内部で兵士たちとの想い出の写真が見れない

 

 

・ステルス要素はなく、正面から相手の反応をうかがって引き金を引く

 

 

あえて曲調を変え、終始カズヒラとコードトーカーの無線を聞きながら強制的にリニアに進めていくという、これまでのMGS4までのような流れを汲んでおり、おそらくほぼ全てのプレイヤーが同様の感情を抱くように演出なども計算されつくした内容になっています。

エンディングでもある「世界を撃った男の真実」も似たような演出技法をとっていますが、あちらはやや蛇足なところが見受けられました。




 

不謹慎ですけどこのミッションにおけるアクション性は兵士を撃つという一点に尽きます。

ただ兵士のリアクションはリアルタイムに変わって、最初は横たわっていたがスネークが銃口を向けると両手で頭をふさいで「助けて」と叫んだり、スネークが近づいたら抵抗するように撃ってきたり、しばらくすると自殺を試みる。

 

 

この生々しいリアルタイムでの兵士たちの反応は実機でプレイするからこそ生まれる緊迫感と罪悪感が見事に表現されています。

前半は助けを懇願したり、スネークをせめる兵士が多くそれが後半になるにつれて状況をのみこんだ兵士が「殺してください」→撃つ→「ありがとうございます」

積極的にスネークに介錯を求めるようになります。

 

 

死してなおも輝くという言葉は、死を間際にしても、兵士としての誇りを守った彼らへの経緯というタイトルの見方もできます。

 

地下の一同敬礼シーンは彼らの忠誠心に対して喜びとどうしようもないやるせなさを抱くでしょう。

さらに地下での大量虐殺を終えて、ようやく非感染者を一人みつけ、「こいつだけを助けたい」・・・・でもこのミッションはそういうプレイヤーの救いを冷酷に裏切っていきます。大勢を一気に撃っていた悲しみと最後の独りを撃つ悲しみはいずれも変わらず重いものです。

 

 

さらに武器は道中でも入れ替えることができますが、強制武器がアサルトライフルとピストル。
僕はMGSVで殺傷性の高いショットガンやミサイルを主に使用していましたが、強制武器は兵士たちをヘッドショットしかねると2発撃つ必要があります。スネークに介錯を求めた兵士に余計な痛みを強いると申し訳ない気持ちになります。

 

 

殺傷性は低いながらもリアリティを追求し、撃った時のノックバックは非常に大きく、その返り血も画面につくことで「人を殺してしまった」という意識をより強調させます。

全てを終えたスネークの顔面は鮮血に染まり、象徴でもある頭部のヘリの破片も異常に伸びています。

エンディングでも似たような表情になり、鏡をたたき割って完全にスネークの顔になり影武者だったメディックがスネークとして生きるという宣言という暗示のこもった終わり方になっています。

 

 

こちらは逆でスネークとしてではなく医者だったメディック(ひいてはプレイヤー)が体験した人生ということを印象付けているように見えます。

全員を殺し、扉から出ようとするとムービーが始まりますが、道中以上にムービー内では死体が集結し、カズヒラから忠告されていたにもかかわらず両膝をつき、溜まった血を触ってしまいます。

 

 

この瞬間のメディックも彼らとおなじように感染して自分でケリをつけたかったと一瞬でも思っていたのかもしれません。

 

(本作、様々なムービーをシェアボタンで撮ってみましたがどこで撮っても絵になりますね)

彼の悲痛な後ろ姿がそのまま重なるように火葬シーンが始まります。ここでは死体まみれだった隔離施設と対照的にかたわらにカズヒラとオセロット。その後ろには生きた兵士たちが多数囲みます。

 




カズヒラは「こうするしかなかった」とスネークをかばい、ヒューイは「仲間を殺した」とひたすら責めます。

ここまでストーリーを読み進めてきたプレイヤーからすればどちらに理があるか一目瞭然ですが、一番反応がほしいのは後ろの兵士たちです。彼らはずっと沈黙し幹部とボスの動向を見守ります。

 



後ろに多数の兵士たちがいることで彼らがボスに対して何を思い、感じているかを想像させてくれます。

してシリーズ通して屈指の名シーン。スネークが死んだ兵士の灰を海に捨てるのではなく顔に塗りたぐり死しても共に生き続ける、灰をダイヤモンドにし死してもなお彼らは輝き続ける。

 


MGSVは予算の都合上、最後は拙速なラストを迎えていますが、「死してなおも輝く」以降はヒューイの判決、クワイエットを助けたいという切なる想いとメディックの意志が強く反映されていきます。

「サヘラントロプス」にてあれだけスカルフェイスの長い演説をきいても一度も反論しなかったメディックがです。(スカルフェイスの言語統制の支配に関しては一貫性があり、現代でも通用する問題提起として脚本側が意図的にプレイヤーにその是非を問うというためメディックを完全に無口にさせたという意図もとれますが)

 

 

この短いスパンだけでもメディックとジョンの差別化はできているのかなと解釈はしています。(かなり好意的な解釈なのはわかりますよ)

MGSシリーズのキャラ付けはセリフ回しや名言を意図的に狙うこと、ネタ要素などで愛着を沸かせるというアニメ的な手法も多用されています。

僕はゲームのストーリーというのは連続ドラマや特撮、大河ドラマのように長時間、長期間付き合っていくものなので伏線を回収して、気持ちよく終わってくれと思う人間です。

 

 

しかしながら・・・

死してなおも輝くでメディックが新しいBIGBOSS像を確立させていくことで、ここまで彼が無口だった、何を考えていたかわからない場面に対して「実はいろいろ想うところがあったのでは?」という想像力がかきたてられました。

メディック=プレイヤーとしてMGSサーガを追体験していくという評価が一般的ですが、メディックが劇中でほぼ無口だからこそ彼がここで初めて体験した心情はいかなるものだったか、見るものの想像力を喚起させるシーンが多用されていました。

 

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戦争の禍根というテーマを正面から考える

死してなおも輝くでは後にサヘラントロプスを利用したイーライの蜂起が構想されていたため、製作者の意図には反していますが、これがラスト直前で置かれていくことでラスボス不在というMGSVの不満点に対するアンサーになっています。

過去シリーズではメタルギアを倒す、ボスを倒すという明確な敵が存在し、彼らを倒すことで物語は一応の区切りをつけていました。
しかし現実では破棄された核燃料、地雷による二次災害、独裁者を死刑にした地域での民族紛争、虐殺のスパイラル。

 

 

ルワンダ虐殺がその最たる例ですが、戦争後の禍根、MGSVのテーマである報復に対してどのようにアプローチしていくかという真摯に考えています。

 

それは奇しくも初代MGSでシリーズを終わらせようとするが、ファンの異常な期待と会社からの要請によってシリーズを続け、どうやって収拾をつけていくかという小島監督の表現者としての葛藤とオーバーラップするところがあります。

声帯虫という生物兵器と化学兵器を併せ持った存在とサヘラントロプスという核の象徴を保有し続けることで、マザーベース一同は本作の宿敵であるスカルフェイスとの抗争で起こった戦争の禍根に苦しめられ続けるのです。

 

 

それに対する解決策は戦争に戦争を上塗りするのではなく、それによっておこった災害を自ら回収していく。

自分たちも関与した戦争にかかわって痛みだけを受けて報復を止めるしかない。

そのスタートとしてメディックはヒューイに拳銃ではなくボートを用意したのでしょう。




MGSVはストーリーの結末に賛否両論が巻き起こりましたが、それによってMGS4や3と異なり、スターウォーズのように前日譚を主体とした話にも関わらず、MGSVからMGの間に何が起こったかを常に想像し、時には論争していくという環境が生まれました。

ゲームをプレイして楽しかった以上のものを得てほしいという小島監督の想いは成就したのかもしれません。

 

小島監督が、込めていた「ポリティカル・フィクション」がいかんなく詰め込まれた、ベストエピソードです。

 

死してなおも輝くは、GSVが持っていたゲーム性をすべて排除して、演出を徹底的に見せる、真にムービーゲーを完成させたまさにベストエピソードといえるでしょう。

戦争の禍根、核以外の大量破壊兵器の警告というMGSVが展開する戦争論を反映しながら、メディックが新しいBIGBOSS像を見つけ出す通過儀礼としても最重要エピソードです。