突然、アマゾンプライム×北野武作品が見れるという情報を見たときに、心が躍りました。
配信でしかもあの北野武の最新作が見れるという…しかもなぜか1時間6分?
ということで、ネットでは公開と同時にかなり賛否両論の嵐でした。
かなりの実験作であることは間違いないものの、「監督ばんざい」などに比べると、どのような題目で撮るかを明確に決めて届けている分見やすい作品かなと思いました。
今回もネタバレはしますので、ご容赦願います。
ブロークンレイジとはどのような映画なのか?
北野監督のコメントもあるのですが、前半30分は、殺し屋が警察に捕まって、潜入捜査して警察に協力するというシリアスパート。後半30分は全く同じ映像で、ハプニング起きたり、ボケが起こったりするパロディ&コミカルパートになっています。
パロディというのは、普通はその作品が人気を集めたりして、みんなが共有の知識を持ったうえで、パロディ作品が出るものです。
しかし、あまりにもコンテンツが多様化したことや、人の可処分時間が分散されてしまったことにより、みんなが共有できるようなパロディの元ネタが少なくなった…
ということで、それなら1つの作品で元ネタとパロディを楽しめるような作品を作ろうみたいな、狙いがブロークンレイジにあります。
そもそも、タイトルのブロークンレイジも「壊れた怒り」であり、このレイジは、北野武監督の代表作の「アウトレイジ」にかかっていることは北野作品ファンならすぐにわかることです。
ブロークンレイジは純粋に面白かったのか?
さて、結論から言うと正直最後の30分のコミカルパートは途中でスマホをみながら見てしまったので、退屈した部分もあったというのが正直な感想です。
しかし、当初は2時間ぐらいのボリュームだったにもかかわらず、テレビサイズで見ているうちに1時間ぐらいにしたほうがいいという英断を下せたり、今なお新しいジャンルを開拓しようとする北野監督のチャレンジ精神は素晴らしく
このブロークンレイジを見ることで、「北野監督は終わった」ではなくまた次の作品が見たいという思いにはさせられる作品でした。
とはいえ、娯楽性があるかというと…
そもそも、前半のシリアスパートが鬼気迫る演出とか、緊張感が絶え間なく続くというわけではなく、後半のボケのための設定がされていたりして、間延びしているところもあります。
また、映画レビューでも言われていましたが、高齢の主人公ネズミに対して、覆面警察官の大柄の男を殴るシーンがあるんですけど、いくらなんでもあれでKOにはならないだろうと。それを見て、暴力団側が即座にスカウトもありえないだろうと、結構突っ込みどころ満載でしたね。
逆にそういった笑いの中に含まれた狂気とか、狂気の中に含まれたシニカルな笑いのようなものが、北野作品の真骨頂なのかな?って思いましたね。
後半のコメディパートなんですが、とにかくコケたり、つまづいたり、ボタンの掛け違いが多くて、クスっと笑えるものが多かったように思います。
一番良かったのは、多くの人が語っていますが、ネズミが椅子取りゲームでずるをして1番を取って、もらったトロフィーを、中村獅童演じる暴力団の親分が壊してしまいます。
このトロフィーの頭がとれたのは、完全に撮影中のアクシデントですが、それをネズミが「せっかく俺が一生懸命とったトロフィーなのにどうしてくれるんだ」と、舎弟の薬を売りさばいている相手に中村獅童と一緒にひたすら攻撃するのですが、ここはほぼアドリブだったみたいです。
武映画というのは、結構緻密に計算されているイメージだったのですが、こういったアドリブを許容することが、ファンにとってOKなのか、面白ければいいという考えなのかで、このブロークンレイジの評価が割れそうです。
そもそも、笑いというのは計算して確実にとるというのは、M1の決勝に出るコンビぐらいしかできないと思うので、アクシデントをいかしていくというのは、今後の武映画でよくみられるかもしれません。
北野武なのかビートたけしなのかという葛藤での作品
今作のブロークンレイジは、監督は北野武ですが、主演は「ビートたけし」名義になっています。
過去で言えば、完全に笑いに振り切った「みんな~やってるか!」ではビートたけし監督でした。
後半はコメディアンとしてのビートたけしの再起が見れるので、このキャスティングは面白いなと思いました。
また演出に対しても、昭和から続くネタをやりながらも、「時間調整」とテロップに出して、北野武が想定した観客の反応をSNSで見せるなど、実験的な演出もされています。
特に後半は、長年みられなかった代表的なネタの「コマネチ」を見せたり、SNSの文章の中に「こんな映画に本気になってどうするの?」といったたけしの挑戦状のセルフパロディがあったりします。
実は、1本の中で元ネタ、パロディを完結させておきながら、往年のビートたけしファンに刺さるようなセルフパロディものっけているわけです。
私は、90年代生まれなので、ビートたけしといえば「世界まる見え」の人で、出るたびにいろんなコスプレをして、所ジョージをいじるみたいな光景を見てきました。
ただ、そこがある意味この映画においてはノイズになっていて、映画人としてのコメディを見せつけようとしているのか、やはり長年培った芸人ビートたけしの笑いを提供するか?という迷いはあったと思います。
ビートたけしの老いに対するアプローチについて思うこと
人間だれしも容赦なく「老い」は訪れます。
ブロークンレイジは、こけられなくなったら芸人として終わりだという先輩からの格言を聴いたビートたけしの覚悟の映画でもあります。
ビートたけしに対する老いへの憂いというのは、ここ数年よく聞かれました。
よく言われているのは、活舌問題で、ニュース番組でも何を言っているのかわからないという不満などが一般層から出ていたとか。
フィルムの中で全力でボケるとか、若者を唐突に撃つとか、そういうのは北野武の若さへのあこがれ、こだわり、老いの否定といったまた違うテーマを感じ取れるわけです。
このブロークンレイジ、北野映画を人生で初めて見るよという人に対してわかりやすく見せた映画だったと思います。
キャスティングも白竜から中村獅童まで、北野映画の古くから中期、最新で重用される役者が名を連ねており、首に並んで、総決算な感じもします。
一方で、はじめてみる人に向けながらも、北野武という映画人やコメディアンを排除してみることが難しいという、ある意味難しさもある映画になっています。

