トランプ暗殺未遂が、世間をにぎわているのですが、わが国でも2年前に奈良の西大寺駅前で、長期政権を築き上げた安倍晋三元首相が、山上徹也容疑者の銃弾を受けて、死亡してしまった痛ましい事件が起こった。
トランプ候補のあの暗殺未遂を受けて、本来は読む予定はなかったが、ネットで話題になっていた柴田哲考氏の「暗殺」を購入して読むことにした。
電子書籍だったので全体のボリュームは不明だったが、本を読むことが苦手な筆者でも5日たらずで読めるぐらいに面白かった。
ちなみに、本書は事実をベースにしたフィクションであり、ミステリーものとして楽しめるように書かれている。
なお、あらかじめ言っておくが、ネタバレ全開になるが、ネタバレになったからと言って本書の面白さが目減りはしないと思う。でも気になる人はブラウザバックで。
あの事件の不可解な点を今一度振り返る
私は関西に住んでいたが、大和西大寺駅には縁がなかった。
縁のある人からは、なぜバスが通り、人通りも少ない大和西大寺駅の北口が選ばれ、南口が外されたのか?というそもそもの疑問がある。
さらに安倍氏はもともと長野県で応援演説の予定だったことが、急遽変更され、それが警察の警護体制を弱める一因となった。
さらに、方々で指摘されているが、事件当日、安倍氏後方にSPや警察などの監視があまりにも弱かった。
事件当初から、山上単独犯説は疑問視されており、中国やCIAといった第三国の関与なのか?または警察などが関与しているのか?という考察まで様々な角度から議論された。
しかしながら、元首相の演説の予定をぎりぎりに変更できるほどの影響力、事件後に現場調査を遅らせ、5大新聞はすべて同じ見出し、そして山上氏の公判はまだ行われていないという状態
政権のみならず、メディアや警察組織にも影響力を与えられる人物ではないか?という点から、この暗殺では、自民党と関連性の高い、保守系の組織、フィクサーによるものではないか?と推察されている。
安倍元首相の暗殺について 宗教団体とスナイパー
「暗殺」では、山上はケネディ暗殺のスケープゴートとして用意されたとされる「オズワルド」であり、安倍首相を頭上から撃ったスナイパーがいると予想されている。
どのように暗殺し、どのような銃をつかったのか。その暗殺方法、銃に対するあまりにも詳細すぎるこだわりが、この小説が単なるフィクションの枠にとどまらないs凄みを持たせている。
確かに事件から間もなく、どのように犯行が行われたのか?よりも、山上氏と統一教会の関係性ばかりが取りざたされていた。
そして、統一教会へのバッシング、敵対心を多くの国民が持つことになった。
この小説では、その宗教団体が一つのテーマとなっており、山上と宗教団体の関係性、母親がかなりの信者であり家庭に影響を与え、山上本人が自殺未遂をしていたという点も事実であると仮定している。
そのため、山上はオズワルドとしての役割を全うする前に、自分の人生を変えた宗教団体への復讐に燃えていたという一面がある。
1人の人間の経歴をまったく違うものに演出するというのは、現代において非常に難解なことだ。
しかし、仮にスナイパー説があるのであれば、山上容疑者は最初から、自家製の銃の銃声だけを大きく響かせるように意識して、空砲をあげることを合図として行動していたというに仮定したほうが、自然だ。
事件直前の映像を見てもわかるように、安倍氏の周りには多くの護衛がおり、散弾銃を撃った場合に周りに影響を与える可能性が高かったとされる。
結果的にあの宗教団体は世間から大バッシングを受け、宗教団体から支援をうけていた与党政治家も大きな損失を受けることになった。
「暗殺」における推理 なぜ黒幕は安倍氏の暗殺を企てたのか?
日本の歴史、戦後史に関して私は全く明るくないので、黒幕がなぜ暗殺を断行したのか?についての深い怒り、理由についてはあまり理解できなかった。
戦後レジームからの脱却を期待されたが、日本はいまだに米国の属国といった印象は強い。現在では、あまりにも円高が進み、トランプが次期大統領になれば、是正される可能性が高い。
安倍元総理は歴史観について、強い信念がなかったわけではないだろうが、長期政権を運用するために利用すべきもの、切るべきものを選定していたことは間違いないだろう。
アベノミクスに関して、国民レベルで経済の発展、給与の増加などを感じられず、結果的に増税も行われてしまったが、日経平均株価はパンデミック以前はかなり上がっていた。
結果的に、日本の経済を豊かにするは、国民の生活を豊かにするのではなく、日経平均株価を上げるという意味になってしまったのは、残念なところだが。
この「暗殺」で興味深かったのは、トランプ大統領就任時に、当時の安倍総理に米国に電撃訪米し、米国からトマホークミサイルなどを大量に購入する密約をおこなったという点への批判。
隣国に対しての武力を持つことによる抑止力とされていたが、果たしてひと世代以前のミサイルを大量に2500億という途方もない金額をかけて購入する必要性があったのか?
そのつけを、その後の菅、岸田内閣が引き継ぐことになったと推察されている。
確かに岸田内閣になってすぐに、「防衛費をもっとあげるべきだ」という議論がされていたが、これは今後増加させるために必要だという議論ではなく、すでに大量の兵器購入があったから、後付けであげるべきだという議論がされたということになる。
安倍元首相の死によって誰が得をしたのか?
不謹慎な言い方になってしまうのだが、安倍元首相がなくなったことで、自民党は、長期で与党の座に居続けられている。もちろん、野党があまりにもふがいなくみえるという現状もあるのだが。
安倍元首相が総理の座から降りるときも、森友問題、桜を見る会など、政治とカネのつながりを感じさせる報道がされていた。
その後も自民党が長期にわたり与党に君臨した弊害として、政治とカネの問題が取り上げ続けられているが、ここまで長く居続けられたのは、この傷ましい事件が影響しているといわざるを得ない。
特定の個人が明確に利益を受けたとはいいがたいが、少なくとも自民党とその周囲関係者は得をしたといわざるを得ない。
「暗殺」を世に問う意味について
発売後かなり好評であり、柴田氏の著作のなかで一番売れているらしい。
私と同じように、トランプの暗殺未遂を受けて、あの安倍元首相の事件についてもう一度、振り返る必要があると感じた人が多数いたのだろう。
かなり綿密に取材もされていたし、知識人の方が読んでも納得力のある内容らしいのだが、読む人が読めば「陰謀論っぽい」の一言で片づけられるだろう。
そして、本書が鋭く指摘するように、本当に黒幕がいるとすれば、その陰謀論で片づけられて、風化されることが一番おいしいのだ。
おそらく、真相っぽいことはわかったとしても、真相に関してはケネディ暗殺と同様に、我々が生きている間にたどり着くことは不可能だろう。
では、我々にできることは「この事件は裏がある!!」と声を大にして周りに伝えることなのだろうか?それも少し難しい。
SNSや動画が発達して情報はシェアする時代と思われているが、本質の重要な情報、個人の意思決定に関与するものは、結局個々にゆだねられているというのは、今も昔も変わらない。
この「暗殺」を読んだ個人が、この事件をどう受け止め、自分はどのようにこの激動の「令和」を生きていくのか?
すぐれた書籍、実用書もフィクションも含めて、我々の生きるうえでの羅針盤として機能すると思う。