肉体労働者ここに集まれ これは俺たちの物語だ 1日外出録 ハンチョウ

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このマンガがすごいでスピンオフやパロディ要素にも拘わらず受賞した「中間管理録 トネガワ」に続くスピンオフ第二弾それが

1日外出録 ハンチョウ

あえていうまでもないが、佐々木蔵之介主演のドラマじゃないですよ……

漫画家は異なるが、原作はトネガワに引き続き萩原天晴氏が担当しているので面白さ、クオリティは折り紙付き。6月に発行されたばかりだが、すでに3刷とこちらも絶好調。

このハンチョウを語る前にトネガワの5巻を読んだのだが、このトネガワが成功したのは原作の賭博黙示録の内容をリスペクトしつつも、中間管理職やややこしい社内の人間関係というギャンブルとは違う人間ドラマが主体となっている。そしてしっかりと笑える。


そもそもトネガワは焼き土下座によってほぼ完全に失脚してしまっている。2000年以降のトピックも取り入れながらすでにパラレルワールドとして独立したものになっている。

原理主義なファンからすれば「通らない・・・・こんなことは普通」と言いたくなるかもしれないが、漫画原作を実写化した時のダメな典型が衣装や世界観をそのまま引用して逆におかしくなっているというケースがあるように、トネガワはカイジの世界観を引用しつつも最も大切にしているのは言葉の重み、人と人が分かり合えないでも拙い言葉で支えあう鉄骨渡りの人生論。というカイジのエッセンスはそのままに継承しているのだ……兎にも角にも

さて、このままだとトネガワ論だけで終わってしまうのでそろそろハンチョウを。

ハンチョウというのはカイジの2章目にあたる賭博破戒録の序盤で帝愛の地下労働施設に送り込まれたカイジのE班の班長の大槻。

「今日をがんばり始めた者にのみ・・・・明日がくるんだ」

という金は命より重いに並ぶ名言が印象的。

ハンチョウという特権を駆使して外部からビールや焼き鳥などの嗜好品を調達し、カイジたちが地下労働でためたたった9100円を巻き上げる。ビールは1缶500円とまさに暴利。それをピンハネしてえた利益と帝愛によって許されたチンチロによるイカサマで大量のペリカを得続けている。

どのようなイカサマをしたか、それを受けてカイジはどのように反撃したか。一連の流れは限定じゃんけんやEカードに勝るとも劣らない秀逸な起承転結になっているのでぜひこの序盤だけでも一読してほしい。

ちなみにニコニコ動画では賭博破戒録の1話目だけ公開。地下牢同施設の仕組みとカイジのなかでもトップ3にはいる名シーン。ハンチョウ演じるチョー氏のトリッキーな演技と見どころ満載だ。

さて、このスピンオフ版ハンチョウはカイジの地下牢同施設送りの前後か不明だが、大槻がE班ハンチョウとして幅を利かせ、安定したペリカを得て、数か月に1度は外出権を行使できる立場という前提で物語が進む。

1日外出権という限られた時間の中で、多くのものは酒、女、高級店を必死で探し求めるが、食通のハンチョウは飛び切りの贅沢よりもいつも口になじんだ飯、安心して休める格安ビジネスホテルなどを駆使して快適な休日ライフを過ごしている。

最初は少しつまらないかもと思ってしまった。トネガワと違い人物同士の上下関係も薄く、ハンチョウという立場は作品内でもかなり高め、彼の話術やふるまいであたかも周りより上位の人間用に振る舞うという細かい機転などが中心でこじんまりとした物語に感じられた。

しかし、ここで気づく。
1日外出権も含めて地下チンチロが現代の肉体労働者の風刺であるということを。

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(KCコミック1巻 6話「前世」より 福本漫画ならでっはの圧倒的・・・・・比喩も健在)

何回も読み直すうちに大槻ほど素晴らし食への知識があるわけではないが与えられた1日というメリットで自分がどれだけ楽しむか満足できるか必死になって、一喜一憂する様はまさに俺……

週休二日制はほぼ約束されているとはいえ、年休をとらなければ連休には至らない。いやほかのアルバイトなら有休制度がない職場なんてざらにある……さらに週休1日という職場というのも当たり前のようにある。

平日でも通勤中、帰宅中に楽しめないこともないが、頭の中は仕事で悩まされ、休日ですら人間関係に辟易する。

みな休日に対しては必死、シビアに楽しもうとあの手この手を模索して楽しんでいるのか苦しんでいるのかわからない五里霧中。

最も共感したのが、大槻が学生時代に利用した中華料理屋へ訪れ、がさつに書かれた新メニュー「オムレツライス」に困惑。いつもたのんでいたカニチャーハンを頼むか、それとも冒険してあえてオムレツライスにダイブするか。

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(KCコミック 1巻 3話「捻込」より 生き死にを賭けたギャンブルなんて日ごろそうそうできるものじゃない。ただこうした小さな選択がのちの人生に大きな影響を与えてしまう・・・・・・現実とはかくも無残なものか)

こういう悩みはMOTTAINAI精神を持っている日本人にしかわからないところがある。
「せっかくだから俺はオムレツライスを選ぶぜ」ってなるか
「ここは安心と安定、絶対に満足できるチャーハンをたのむべき」……となるか

ちなみに僕はブロガーなので迷わず前者を選択する。そして後悔するときの方が多い……

あと何もすることがない、プチイベントを期待してホールにいって金をなくして、結局家でゆっくりとワイドショーを楽しむべきだっという後悔も多い。

そして溜め続ければ、たどり着く。家への籠城に。しかし目先の娯楽、付き合いを断ち切ることができず豪遊・・・・・
結局今月支給された給料をすべて使い果たし貯金は0。また明日の見えない労働を余儀なくされる。朝も昼も夜も!!

もちろん大槻の日常のみならず地下労働施設にスポットをあてたエピソードも多い。

原作で大槻とカイジのチンチロ最終決戦において審判役を買って出たC班の小田切と大槻の駆け引きも利根川と黒崎に比べるとスケールダウンするがこれはこれで面白い。

小田切も大槻を見習って物販を開始。ビールより仕入れ値の安いポッピーを主力とし、セットメニューも展開することで徐々に大槻の顧客を奪う。

そんな大槻が起死回生の一手を放つ。

物販の主力商品の一つ、柿ピーが食べ放題になる柿放題プランを敢行。この内容と顛末についてはまぁ想像にかたくないがある会社をトレースしており、プランの内容、それに対する顧客の反応、そしてその後の結末も含めこのエピソードも実に秀逸。

そして大槻VS小田切は第2ラウンドへ。
大槻の独壇場だった地下チンチロ。小田切は対抗してギャンブルではなくタブレットを利用した映画鑑賞会を行う。

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(KCコミック 1巻 7話「熱風」より タブレットに群がる大の男たちの絵面だけでこれだけ注目させるというのがまず異常。比喩の説得力を増すためには現実でおこなわれている描写も比肩しなければならない

「ローマの休日」という超ド定番な映画だが、映像娯楽が一切ない地下施設(ちなみに1日個室権も……)という苦境を利用した娯楽。大槻のチンチロと異なり、タブレット代とそれをWi-Fiでダウンロードするための外出権という負担を小田切が背負っているので1回につき1万ペリカ。月給の9分の1だが正当な娯楽に受けていた地下労働者にはたまらない癒しとなった。

トネガワと比べ、スケールは落ちるが、逆により労働者の日常における喜怒哀楽がよりリアリティを増して些細な日常、過酷な現実を漫画で表現することでより説得力が増すという不思議な感覚に浸る。
トネガワは既に世界観が固まっているので、あとは現実を反映した萩原氏のギャグセンスが光り続けているが、こちらは1巻なので世界観と物語の大枠の解説にとどまっている。だがしかし2巻以降も実に楽しみだ。

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(社会人になれただけでも地下労働者の中ではひとつ格上な大槻。しかし堅実に積み重ねてきた彼がなぜ地下労働者に堕ちてしまったのか……その真実も後に明かされていくことを期待したい)

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