メタリカ アンダーグラウンド的手法で大衆を取り込んだ『きせき』

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1980年代…それまでロックシーンを牽引したイギリスに対して、アメリカでは、金髪に染めて女性のような厚化粧と華美なファッション、恋や酒や車について歌うLAメタルという文化が大衆に受け入れられた。

それに反抗するように登場したのが、スラッシュメタルというジャンル。
そしてそのスラッシュメタルの代表的バンドがメタリカというバンドだ。

イギリスのヘヴィメタルバンドからインスパイアされ、彼らのテクニックや作曲法から新しいヘヴィメタルを形成するヒントを得る。そして、多くのライヴを重ねてテレビやラジオでの宣伝を行わず、アンダーグラウンドから大成功を収めた彼ら。

一週間前に発売された「メタリカ ヘヴィ・メタル革命」から彼らの魅力に迫っていきたい。

メタリカ ヘヴィ・メタル革命 バンド黎明期とメタルの勃興 メタリカ ヘヴィ・メタル革命 バンド黎明期とメタルの勃興
(2012/09/27)
ニール・ダニエルズ

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(伝記ではなく、評伝というところがポイント。客観的なメタル誌のアルバムに対する評論を眺めるのも楽しい)

ヘヴィメタル界のスピルバーグ

「俺達の最初の4枚の作品は、とてもヨーロッパのメタルっぽかったよ」(p14)

「自らの新しいバンドでヘヴィ・メタルの世界に明るい輝きをもたらそう、ラーズ・ウルリッヒがそう決意してからメタリカという名前が決まるまで、そう時間はかからなかった。当時、浮かんだもう一つの名前はメタル・マニア」(p32)

俺たちにとって大事なのは見た目や髪型なんかじゃなかった。俺たちは音楽が欲しかった」(p51)

ガレージ・インク ガレージ・インク
(2008/09/12)
メタリカ

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(人気絶頂時に出されたカヴァーアルバム。多くがイギリスのマイナーなロックバンドの曲で、彼らのロックの引き出しを垣間見ることができる作品)

キル・エム・オール キル・エム・オール
(2008/09/12)
メタリカ

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(彼らのデビューアルバム。ファンの間ではこの作品が唯一のスラッシュメタルという声もある。自分達があこがれたバンドをコラージュした形で、メタリカ独自の多くのギターリフと激しいギターソロを詰め込んだ内容になっている。)

「メタリカは音楽を呼吸し、音楽で生きてきた。大切なのはイメージなどではなかった。ミュージシャンに惹きつけられる女達すら彼らは重要視していなかった。彼らはまさにメタルおたくだった。」(p51)

通常、一つのジャンルの音楽を聴きあさっていくと、メジャーバンドとは違うコアなバンドを応援することがファンであることのステータスだと錯覚するようになる。
しかし、メタリカの場合、様々なジャンルのメタルを聴けば聴くほどまた彼らの楽曲が持つ引力に引きずられるような魅力を持っている。
それは、彼らの楽曲が明らかに70年代からのイギリスメタルの文脈を引き継ぎ、独自の解釈で新しいものを作ろうするエネルギーが感じられるからだ。

映画に例えるとスティーブン・スピルバーグと同様の大衆性とマイナー性を備えている。
自らが手がけるジャンルに徹底的にオタクレベルでのめりこみ、そこから自分なりの解釈を加えてエポック・メイキングを達成する

そして、彼らは音楽をリスペクトしているとともに、音楽に対して非常にストイックな姿勢を貫く。

「ライヴ・アルバムとういのはおかしなものだと思うんだよ。ほら、他のバンドの例を見てみると、ライヴ・アルバムが出るのは、バンドの創造的なアイデアが枯渇した時か、バンドが1年間休みを取ることを望んでいる時だろ。
どっちの状況も俺達には関係ないから、今の時点ではライヴを出すということは次のステップとして論理的に思えないんだよ」(p168)

メタリカというバンドは、これだけ世界的なセールスを記録しておきながら、スタジオ音源によるベストアルバムを未だ発売していない。
一見、新規に対して閉鎖的な態度と取れるが、彼らは常に新作が現状でのメタリカのベストだといわんばかりの姿勢を取っていることがこの発言から分かる。

デス・マグネティック デス・マグネティック
(2008/09/12)
メタリカ

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(現状で、メタリカ単独の最新作。80年代のスラッシュ路線と90年代のグルーヴ路線を統合した形の作品。完全なる原点回帰を目指しているが、結果的に彼らのこれまでの作曲スタイルの変遷の先を示した作品になっている)

しかし、ライヴ映像自体は、自らの楽曲の良さを普及するために海賊版の流出を容認していたし、彼らも当初カヴァーバンドとして活動していたことから、自分達の曲をカヴァーすることに対しては好意的に受け止めている。

そして、音楽違法無料ダウンロードの配信元であったナップスターと正面から対立表明をしたのもメタリカである。
当時は、「拝金主義」「事務所の犬」と蔑まれていたが、「自分達の子供が切り売りされる状況を無視できない」というメンバーの意見は、一理あるし、彼らの音楽に対する情熱を正当づける意見である。

精神的飢餓からなる内省的な歌詞

「メタリカが唯一関わらなかったテーマはオカルトだ。オカルトはヘヴィ・メタルの初期の頃から、ブラック・サバスをはじめとして、NWOBHM(イギリスの正統派ヘヴィメタル)のバンドのヴェノムの血に飢えたシアトリカルなやり方や、アイアン・メイデンの皮肉な歌詞とイメージなど、様々なバンドが手を染め、試してきたテーマではあったが、メタリカの好みではなかった。
メタリカはロニー・ジェイムズ・ディオやマノウォーのように、歌詞の中にファンタジーの世界を作り上げることもしなかった。メタリカの歌詞は、若い世代の子どもたちの怒りや苦悩を反映しており、1970年代のパンク・バンドと共通する部分のほうが多かったはずだ。
これはメタリカの歌詞が様々な意味で、彼らと同種のヘヴィ・メタル・バンドよりも時代の変化に耐えうることを意味している。(中略)一つひとつのアルバムが正確な個人史のドキュメントとなっているのだ。(p151)

メタリカの歌詞は、酒や女といった従来のヘヴィメタルとは一線を画した歌詞が多い。
主に神話や映画に感化されて構築されたものが多いが、いずれも現代社会に重ねて、またはこちらが現代社会にはびこる問題とオーバーラップするように作られている。

私は時折、彼らの曲を引用して取り上げたテーマについて語る。
元々、ヘヴィメタルというジャンルは、ポップなどのメインカルチャーに対するカウンターカルチャーの一面が強い。そのためキリスト教や平和に対して懐疑的な視点から語られる曲が数多く存在する。

とりわけ、スラッシュメタルは、社会問題について提起するバンドが多く存在し、メタリカも死刑制度や戦争、宗教、麻薬に対して一石を投じるバンドである。

「俺の書く詩だけど、俺は自分自身のために書くことが殆どだからね。人にどう考えろとか教えている訳じゃないよ。」(p150)

「つまりさ、率直に言って、この世の中はきれいなものじゃないんだよ。この世の中はかなり病んでいるんだ。醜い出来事がいっぱいあるし、どれほど頑張って逃避しようとしても、世の中はめちゃくちゃで醜いものだという事実に直面せざるを得ないんだよ」(p119)

初期の作品は、社会問題を通して怒りや悲しみを歌っていたが、90年代、彼らの最大のヒットアルバムとなった「メタリカ」を境に、心傷かつ内省的な歌詞が多用される。
これらの歌詞は、グランジブームと符合して、大衆に受け入れられたと考えられるが、2000年代に入って制作された「セイント・アンガー」は、作詞者がアルコール中毒に陥り活動不能になった経緯も含み、これまで以上に内省的な歌詞が盛り込まれている。

セイント・アンガー セイント・アンガー
(2003/06/09)
メタリカ

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メタリカ 真実の瞬間 [DVD] メタリカ 真実の瞬間 [DVD]
(2006/09/08)
ジェームス・ヘットフィールド、ラーズ・ウルリッヒ 他

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(確かに彼らは成功し巨万の富を得ているが、物質的幸福と精神的幸福は比例しない)

メタリカの歌詞は、あからさまな希望や幸福を描かない。暗い現実の一面や絶望をイメージさせる。
内省的な歌詞は、いかにもアンダーグラウンド寄りの手法であるが、音楽に対するストイックなスタイルと同様、彼らが内省に踏み込めば踏み込むほどに意図しない形でメッセージ性を強固にし、それが楽曲の魅力につながっている。

彼らがいまだにヘヴィメタル界の大御所として最前線で活動できる背景も、希望とは違うかたちで寄り添う歌詞への支持が残っている点と、時代の感情を察知することに長けている、秋元康のような嗅覚を持ち合わせているからだろう。

何より、メタリカが楽曲を制作し続けるモチベーションを維持できたのも、精神的な飢餓を常に保ち続けてきたからだと考える。

メタリカと言うバンドは不思議なバンドだ。
実際、彼らが全米ナンバー1のアルバムセールスをたたき出した際は、アンダーグラウンド時代に支持したファンが離れたらしい。
それでも、多くのヘヴィメタルファンが、未だにメタリカを語る際は、個人の思い出を引っ張り出すように感慨に浸って語り合っている
それは、メタリカがただ純粋に自分達がやりたい音楽を探し、書きたい歌詞を書いて、その中で響くものを探ったごくシンプルだが、初志貫徹している点がもたらした産物だろう。
現在、ヘヴィメタルは80年代のような勢いとは言わないまでも、多くのバンドが復帰し、口コミの形で新規ファンを確実に増やしている。そのたびにメタリカの過去の作品が親しまれ、彼らの存在はより強固に語り継がれていくのだろう。

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